甘い匂いとキラキラした外観。
初めて見るソレらに、はキラキラと目を輝かせた。
09:溢れだす藍
伊達が持ち帰った異国の菓子に、は目が釘付けになる。
口をポカンと開けてキラキラと目を輝かせるは、歳相応どころかそれよりも多少幼い雰囲気を見せた。
飽きることなくじーっと菓子を見つめるを観察し、伊達はプッと噴き出す。
しかしそんなことにも気付かず、は見たことのないさまざまな菓子に目を奪われている。
「…政宗さんっ」
ばっと顔を上げて伊達と目を合わせるに、伊達は犬の耳と尻尾の幻覚が見た気がした。
「AH?」
「これは何というものなのですか!?」
尻尾をぶんぶんと振る子犬のように、は興味津々で伊達に問う。
奥州に来るたびに少しずつ増えている異国のものを見るのが、にとって楽しみであり。
それを見るたびに嬉しそうな顔をするを見るのが、伊達にとっての楽しみだった。
「AH〜…、chocolateっつったっけな」
「ちょこれいと?」
ポリポリと頬を指でかき、うろ覚えの名前を伊達は脳内からひねり出す。
たどたどしい発音でその名を繰り返すは、キョトンとした顔をして食べれるのですか?と再び問う。
「食べれるだろ、菓子なんだし」
まぁ食ってみろ、と伊達は数ある中から一つを手に取り、キレイな色をした銀紙を器用に外す。
整った形をした小さなチョコレートの姿が露になり。
ふっくらとした唇へ指が触れ、の口内へ伊達はその固体を押し込んだ。
の舌の上で、チョコレートが柔らかく溶ける。
液体に限りなく近くなったそれが、の喉へ通り。
「美味いか?」
小さくコクンと喉が動いたのを見て、伊達は言った。
「とても、甘いのですね」
「団子とは比べ物にならねぇだろ?」
伊達の言うとおり、団子とはまるで比べ物にならないほどの甘さだった。
数を食べれば、喉が焼けるような、と形容するのでさえ正しくなるような。
「異国にはこんな美味しい菓子もあるのですねっ」
目を輝かせては言う。
満面の笑顔を浮かべるの頭に手を当て、ぐしゃぐしゃとかき混ぜる様に頭を撫でた。
「…もう一つ食べてもいいですか?」
はきゅーん、とねだる様な視線で伊達を見つめる。
「Ha、食いたきゃ食えよ」
―――お前の為に、手に入れたモンだ。
たとえ、それが真実でも、言うつもりはないけれど。
幸せそうにチョコレートを頬張るを横目に、伊達はふっと口元を緩めた。
もし、伊達が『梵天丸』と呼ばれていた頃からを知らない者がこの笑みを見たなら、天変地異だの何だのと騒ぎになったかもしれない。
「おや、随分機嫌が良さそうですね」
盆を手にした片倉が音なく障子を開けて部屋へ入った。
湯気の立つ湯のみを伊達へ手渡し、の前のちゃぶ台へもう一つ湯のみを置く。
「お久しぶりです、小十郎さん」
「こんにちは、また来ていらしたのですね。さん」
にこりと微笑んでが挨拶をすると、片倉も同じように笑顔で返す。
最初はに対して随分警戒していた片倉だが、の邪気のなさに当てられたのかその人となりを悟ったのか、今ではまったくと言っていいほどへの敵対心が薄れている。
それでも、以前はが忍んで奥州へ来ることを快くは思っていなかった。
が、甲斐と奥州が同盟を組んでいる今が主人である伊達の命を狙う理由はないし、何より伊達自身がを傍に置いておきたがっている。
「仕方ないか、うちの殿だしなぁ」ともはや諦めているのも事実。
―――正直、伊達とを二人きりにしている間、伊達の命よりもの貞操の方を心配してしまっている。
茶飲み友達ともなれる彼女を、片倉自身気に入っていた。
「その御菓子、殿がさんの為にとお求めになったんですよ」
「ああ!?デタラメ言ってんじゃねぇ小十郎!」
自分が言うまいとしていたことをあっさりと片倉にバラされ、伊達は顔を赤らめて怒鳴った。
「素直じゃないですねぇ、さんが来るのを今か今かと心待ちにしていらっしゃったのに」
「お前もう出てけ。」
青筋を浮かべた伊達に睨まれ、片倉はへゆっくりしていってくださいね、と言葉を投げかけて部屋を出る。
伊達は明後日の方向を見て頭をガシガシとかいた。
普段からわりとボサボサしている髪がさらにあちこちへハネる。
「ありがとうございます、政宗さん」
その声に伊達がの方を見やると、本当に嬉しそうな顔で笑うが居て。
照れたように、伊達は苦笑を洩らした。
「…おい」
「ふえ?」
再び食べることに没頭していたは、声をかけられて上へ向く。
唇の横に、付着しているチョコレート。
伊達はさっとの顎を捉え自分の方へ引くと、顔を近づけてペロリと舌でそれを舐めあげた。
「…っ」
弾かれた様には体を引いて、顔を真っ赤にした。
「はっ、はれんちですよ!!」
「AH〜〜〜HA?もったいないから舐めただけだぜ?なんもやらしいことなんてないだろうが」
「そんなの屁理屈ですよっ!」
「屁理屈でも理屈は理屈だろーが」
ぐ、と伊達はへ近づき手を伸ばす。
「、お前何想像した?」
右手は頬へ、左手はの背中を回って腰へ。
赤面して伊達の胸を押すが所詮女の力で、伊達にかなうはずもなく。
「やらしい子だな?チャン」
伊達の唇がの頬を滑り、真っ赤になって体温の上がっている耳たぶを、はむ、と唇ではさむ。
小さく歯を立てれば、可愛らしい悲鳴が上がる。
「悪い子にはおしおきが必要だよな?」
腰を引く力を強め、情事に走る段階を踏もうとしたとき―――
「何なさってるんですか、殿っ!!?」
片倉が乱暴に障子を開け放った。
「Shit!空気を読めよ、小十郎」
「た、助けて小十郎さん…!政宗さんに食べられるっ!」
「私は…私は悲しゅうございます!昔はあれほどまでに可愛らしかった殿が女性に乱暴を働こうなどと…」
よよよよ、と泣きスタイルに入って伊達に背を向けて一人の世界に入ってしまった片倉を見。
伊達は唐突にの唇を奪った。
心の準備も何も出来ないうちの口付けに、は戸惑う。
息を吸おうと口を開ければ、その隙間から伊達の舌が入り込み、の口内を嘗め回す。
が逃げるように舌を動かせば、伊達の熱いソレは追いかけ捕らえる様に、半ば無理やりに絡めた。
生々しいザラリとした感触が伝わる。
飲みきれなかった唾液が溢れ、顎を這って喉へ流れた。
誰かこの狂人を止めてくれと、涙の溜まった横目で片倉の居た方を見るが。
既に、そこには誰も居なかった。
(見捨てられた…!?)
片倉としても、あまり伊達の機嫌を損ねさせたくないのだろう。
ならば多少心は痛むが、に犠牲になってもらおうと。
ようやく接吻から開放されると、深く息を吸っては手の甲で顎を拭った。
「Oh、甘いなこりゃ」
越しにチョコレートの味を堪能し、ペロリと口の端を舐める。
「さて、と」
を担ぎ上げ、常時引いてある布団の上に乱暴に降ろすとの上に伊達は馬乗りになり。
「このままおとなしく俺と契るのと、拘束されて俺に犯されるの、どっちが好みだ?」
「…っおとなしく甲斐に帰るという選択肢はないんですか!?」
「No!諦めろよ、もっとcoolになろうぜ?」
甘い匂いで満たされた部屋で、甘い声を上げる極上のモノを組み敷き、甘い時間を過ごし。
胸が焼けそうなほど、甘い想いを抱き。
それは甘い侵食。
「今日もいい天気ですねぇ、成実」
「え、何いきなり。つーか、殿の部屋からなんかギシギシ音がすんだけど」
「…ごめんなさいさん……!」
「あ、懺悔なら自分の部屋でやってくんね?ウザイから。」
珍しく本当にほのぼの・甘な気がする。
この時代のチョコってもう砂糖入ってましたっけ?