憎む事が出来たらまたおいで。

そうしたら、僕は――――――――


80,000 hit& 1周年
ツギハギの絆


「僕は『闇の帝王』になる。だからも―――――」
「クスクス・・・・・”今”の君に興味が無い。だから行かないよ。」
「なんで!!」


「憎む事が出来たら、またおいで。トム・リドル。」



ドォオン!!

巨大な落雷が全てを叩き壊す。
雨はし切りに降り注ぎ、地上に残された跡をかき消した。

「……クスクス……君も物好きなイキモノですね……」

ニャァァ…ォ…
足元で体をなすりつける猫に語りかけ、二十歳前後の男は窓の外を仰ぎ見た。
黒い瞳は、絶えず暗雲が逆巻き続ける空間を見つめる。

バタンッ!!!
土砂降りの雨音が、激しく部屋に響いた。


「まったく――――・・・修理費は払えるんですか?」

がのほほんと微笑み返す先、
戸口の前にはずぶ濡れのローブが独り立っていた。
手にもっていた杖をに向け、頭巾の鍔からチラチラと紅い瞳は、突き破る様に睨みつけている。

「ほぉ…俺様を出迎えるとは、余程死にたい様だな……」
「傷口モロバレで言う科白じゃありませんねぇ。」

が皮肉交じりにチラッと視線を動かせば、左脇に鮮血がにじみ出ている。
それでも、目の前の男は決して弱みを見せない。

彼がひ弱な神経等持ち合わせていない事ぐらい、
まぁ、取り敢えず『知ってる』と言っておきましょうか。
後々知られたら煩いですからね。

は絶えずニコニコと笑いながら、

「それで、今日はどの部下が背徳なさったんです?トム・リドル君。」
「………その名の男はこの世に存在しない……何度言わせるんだ……。」
「あはは、やだな。僕が君を悦ばせた事無いじゃないですか。えーと、確か『闇のお殿様』でしたっけ?。名前。」
「………貴様はいつでも嫌味だな。」

苛立ち紛れに舌打ちをして
ドサッ 不躾にも濡れた格好で黒い皮張りのソファーに座る。
気分を害しているのは明かだが、は諸共せず肘掛けに腰を降ろす。
嘲う本心をオブラートに包んで見下ろす。

「解ったでしょ?仲間など所詮他人、なら絶対的服従を叩き込まなきゃ。」
「貴様に言われる筋合いなど無い。」
「えぇ、ありません。でも、」


「僕等、嫌なことに血縁関係ですから。」


ヴォルデモートの顔が醜悪に歪んだ。

そうそう、その顔だ。

角張った青白い手がの黒い瞳に伸ばされ、剔るように何かを取り出した。
ヴォルデモート手の内で、ガラスが割れる音が、息の根を止められた動物のように短く聞こえた。

黒色の下には、血を連想させるほど鮮やかな

――――――― 紅。

「カラコン、高いんですよ?」
「愚考な奴だな。偉大なるスリザリンの血筋を隠すなど。」
「ホグワーツ在学中の君程じゃありませんよ。ねぇ、混血孤児のリドル君。」

はそう言って、ヴォルデモートの濡れた髪を手で梳く。
ゆっくりと頬に触れて、同じ血の瞳を見つめる。
ヴォルデモートは忌々しげに眼を細めると、は猫なで声で言った。

「僕を見ていると、苛つきません?僕の顔、君が捨てたトム・リドルとそっくりでしょ?
 異母兄弟とは、全くもって哀しいですね………。」

クスクス笑ってはヴォルデモートから離れた。

入学当初前から、トム・リドルが異母兄弟なのは知っていた。
当然だ、彼の母親は僕の母の妹だから。
孤児なのも、混血なのも何度も聞かされた、


「復讐してやる。マグルなんて―――全部無くなれば良いんだ。」

11歳でそう言い除けた君に興味が沸いた。


「え?君もスリザリンの血筋なの?」
「うん、そうだよ。僕等取り敢えず兄弟なんだ。僕は。」
「僕は―――――――――リドル。」



君は直僕に懐いた。
けど一つ残念だった。

相手に寄り掛かる事で、君は己の闇を破棄してしまいそうになった。

それは些かつまらない。
イロの無い君は欲しくない。

だから、そうなる前に、運試しに君を捨ててみた。


「あの頃は君も可愛げのある少年だったのに、今じゃ図体だけ大きくなりましたねぇ。」
「……………。」

棚から紫の小瓶を取り出し、
は丁寧にヴォルデモートの傷口に薬を塗りつけた。

「お前は相変らずだな―――――――。」

ガシ!!グイッ
視界が一回転して、湿ったソファーに叩きつけられる様に押しつけられた。
ギリギリと手首を握り潰す。
弧を描く様にの唇が吊り上る。


「ククク・…………俺様の誘いを断ったあの瞬間、嘲っていたんだろう。愚かな『穢れた血』だと。」
「おやおや……秀才も凡人ですね、トム・リドル君」
「黙れ!!」

キツイ罵声が、矢の様に降り注ぐ。
闇の帝王ではなく、あの日の君になる。
最初で最後。


「兄弟?――――――笑わせるな。本気でそうとは思ってなかった癖に…ッ…」


ザーザーと雨が謳う。

重圧なる威圧が部屋を満たす。

の飼い猫は毛を逆立て、ヴォルデモートに威嚇を続ける。
ヴォルデモートは目を細め、皆目無慈悲に杖を振り下ろした。

『アバダケタブラ!!』

緑の閃光が早鐘の様に走りぬけ、猫の体を貫いた。
短い断末魔は倒れた鈍い音に紛れ、猫はもう二度と動かなかった。
はさして気にせず、笑いつづける。

「覚えておけ、今度は貴様がああなる番だ。」

光りが暗闇飲まれると略同時、ヴォルデモートは濡れたローブを翻し、
『姿くらまし』で音も無く空気の中へ消えていた。

鋭い雨音が、沈黙を掻き消すほど喧しく響く。
は肩を揺らして笑いつづけた。

「本当に解ってませんね……リドル……」


闇をも震撼させる鋭い慧眼。
排除を望む憎しみ。

――――――そう、それでいい。

僕を憎めばいい・……それで君が僕を忘れられなくなるなら

「漸く熟してくれて嬉しいよ―――――――リドル。」



「我君、わ、私めは魔法省などに寝返ろうなどとは……」


暗鬱な木々の下。
緋色の月に照らされたその下で、脅えた声が雑音の様に克明に響き渡る。
情けをくれと必死でせがむ愚者が、俺様の目の前でヒーヒーと喚き、
同朋のデスイーター共が嘲う。

「おい、聞いたか?寝返ろうなどと思ってないと。」
「そ、そうです!私は―――」
「馬鹿な奴だ。ノットが既に情報を掴んでいる。よくも我君を売ったな…」

野次やブーイングを飛ばし、情け容赦無く愚者を罰していく。
その粗末な光景を見て、ヴォルデモートは静かに目を閉じた。

そう、裏切りは死に値する。
俺様を裏切る奴は例え誰も生かしては置けない。
所詮捨て駒にしかならないのだな。
他人だから。

「兄弟だから、僕はリドルを裏切らないよ。」

だが、貴様は俺様を裏切った。

未だその理由がつかめない。
掴めない?

まさか、ソレを欲しているのか?

「くだらん………」

ヴォルデモートはそのまま踵を返し、暗がりに向って歩き出した。

「くそおぉおお!!!!!!」
「!」

自暴自棄に走った男は、力を振り絞り、ヴォルデモート目掛けて呪文を向けた。
「我君!」デスイーターの誰かが叫ぶ。

だが、

『アバダケタブラ!!』

放たれる前に、別の方向から緑の閃光が男を射貫いた
声を、命を、闇さえ、貪欲な蛇の様に全て呑み込んで。
肉体は無様に鈍い音を立てて地にひれ伏した。

サワサワと掠れ合う葉を縫う様に、低い男の微笑が木霊した。
一斉にデスイーターが身構える。

だが、ヴォルデモートだけは、何時にも無く冷徹な笑みを浮かべ、ある1点を見据えていた。

ほう……下らんマネを――――――

「部下に足元掬われる上司なんて、僕は見たくありませんよ?」

大きなヒイラギの巨木の傍から、一人の男が暗がりから抜け出てきた。
黒い髪、黒いローブ―――――紅い瞳

ヴォルデモートは皮肉な笑いを出して睨む。

「何をしに来た。興味無いといっていた男が」
「助けたのにその言種、傷つきますね。」

低く微笑しながら、はリドルの傍にたった。
紅い瞳が柔らかく微笑んだ。

「僕はね、兄弟愛なんて望まれては困るんですよ。」

ぬるま湯な関係はいらない。
愛の名のつくものはいらない。

飴玉みたいなソレを手の内で転がすのは容易い。
けれど最後に儚く踏み潰したあの瞬間で見えたモノ
それは何物にも変えがたい真実を帯びて


「君が弱くなっては困りますから。だから蹴落とす事も厭わない。
 憎んで憎んでドロドロになれば事がスムーズに運ぶ……君がその座に行き付く為なら……」

そうする事で、君は確実に絶対的な支配者を望むだろうと
僕が待ち望む君になるだろうと

そんな君が欲しい。

その為なら、切り刻むぐらい傷付けてあげるよ。


「偏食虫め……」
「『闇のお殿様』に言われたくないですねぇ。」

クックックと互いに笑いなながら、互いの顔を見た。
冷たい月だけが称えるように空を朱に染める。
妖光な耀きを宿しては笑う。

「さて、ヴォルデモート卿……出来れば遊びに入れて欲しいのですがね?」

愛より憎悪が勝る瞬間がある。

甘ったるさよりも、憎しみが欲しい。

その奥底を支配しつづけるほど
激しいキズナ

「ならば、もう二度と俺様を裏切らぬ事だな、。」


「憎む事が出来たら、またおいで、トム・リドル。」


その時が来たら、

僕は二度と裏切らないと約束しよう。


 +後書き+
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80'000hit&1周年企画フリー夢!
妙な小説を持ちかえってくれる粋なお方、有り難うございますv

四万打の時に、投票して頂いたのを活用しました。
闇の帝王が一位でしたので、ヴォルデモートの夢。
しかも、初男主人公の夢。(夢でもなんでもないなぁ)
ダーク過ぎますね。苦手な方はすんません。
とりあえず、闇の帝王誕生を望む主人公。
滅茶悪サイド。(うわぉ)

御陰様でフラフラしながら1周年を迎えられました。
足を運んで下さっている皆様、本当に有り難う御座います!
今後とも『そであらい。』をよろしくお願いいたします。m(_ _)m

2005/8/5      管理人:陵創貴


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陵様1周年&8万ヒットおめでとうございます!!
フリー夢との事でしたので即持ち帰りました!
これからも頑張ってください、応援してますv
火原