テストの合間の休み時間なんて生徒は全員最後の悪あがきで必死だ。
が、そんな世間一般の学生論にが当てはまるはずもなく彼女の机の前に広げられた進○ゼミの『定期テスト予想問題集』には何も書かれていない。
「早く解いてください」と言わんばかりに『よく出る』マークのつけられた設問は空しくも一向に記入される様子はない。
頬杖をついてシャーペンをクルクルと指先で弄ぶは目の前の問題を解くことよりも「何回止まらずにシャーペンをまわせるか」という新記録樹立の方に集中している様だ。

しかしそんな彼女の退屈しのぎも赤也が問題集を横から取りの手に当たったことで終わりを見せた。
新記録達成ならずに強制終了を迎えたシャープペンシルは切なそうにコロコロと机の上を転がってゆく。

「…あと6回だったのに……」
「は?」

なんとも静かな記録挑戦、もちろん赤也にそれが分かるはずもない。

「学生さんは時間がないとはよく言ったものだよね」
「それって金の間違いじゃねーの?」
「いやいや時間も一理あると私は思うよ。現に見てみなよ赤也、皆時間に追われつつ平凡な脳みそに語句を叩き込んでいる」
「平凡って…」
「まったくもってナンセンスだね!たかだか紙切れ一枚にこんな時間をかけるだなんて」
「その性格で友達が多いのが不思議っス」

思ったことは大抵口に出してしまうだが、反感を買うのと同時に憧れの念と好感も抱かれるらしい。
本人敵意には鋭くとも好意にはありえないほど鈍いのでまったく気付いてはいないようだが。

「次のテスト公民だっけか?なんか問題出してやるよ」

パラパラ〜と社会の項目を問題集から探す。

「あーっと、『アメリカは、国民が選んだDが行政を行うD制という仕組みをとっています』。Dとはなーんだっ」
「…ダンブルドア?」
「…大統領(大丈夫かよ、コイツ…)」
「私日本人だからアメリカなんて関係ないよ」
「(開き直りやがった)大統領の名前を一つ!」
「クリントン。」
「それ聞いたら栗食いたくなんねぇ?」
「ワシントン?」
「DC?」
「アメリカって言ったらワシントンハウスしか出てこないよ」
ホワイトハウスな
「…ワシントンにある家はワシントンハウスって言うんだよ」
どんだけ多いんだよ
「ワシントン1大きい家には毎年ワシントンハウス賞が贈られるという…」
マジで!?
「賞状には大統領の拇印が押されるんだよ」
大統領公認!?
「そしてワシントン1小さい家にはワシントンハウススモーレスト賞が贈られるらしい」
「いらねー!んなの恥さらしじゃん」
「5年連続受賞でメロンパン貰えるんだよ」
いっそ金の脳プレゼントしてやれよ。
「賞状と引き換えに…」
「銀の脳5つで金の脳と交換ってノリで?」

キーンコーンカーンコーン、と学生に悪あがき終了のチャイムが鳴った。

「…くっだらねぇ事で貴重な時間潰しちまった!!」
「(馬鹿だ)頑張れ赤也、私は90点はカタイけどね」
「(くっそムカツク!)これで俺が追試になったらの所為だからな!」
「人に罪なすりつけないでよ。元はと言えば赤也が勝手に問題集取り上げたからじゃん」
「おーい、私語は禁止だぞ切原、ー。」

いつの間にか入ってきていたらしい監督の教師がテストを裏返しにして配りながら声をかける。

「………テスト開始!」

学生にとって学校生活最凶といっても過言でない定期テストの1教科が、今始まった。

赤也がに教えられた事が全て嘘っぱちだと知ったのは、その数日後だったらしい。


ほぼ 実 話 。2年の社会は歴史じゃないかという冷静なツッコミはこの際スルーさせていただきます。
作中と同じ問題を友人から問いかけられ、作品と同じように会話は進行しました。違うのは休憩時間かバスを待ってる間かということくらい。
=火原、赤也=友人。
赤也の声が森久保ボイスだと知ったのもこの頃です(素敵)。