「願いごーと 5つだけ、かーなえってっくっれっるなーらーっ」
「一つではないのですか?」

某名探偵アニメの一昔前のエンディングテーマソングを無表情にご機嫌に歌い上げるへ柳生はしっかりと替え歌の部分にツッコミを入れる。
部室の机いっぱいに広げられた折り紙やら厚紙やらに柳生は困惑の表情を浮かべたが、の持つ長方形の紙と筆を見てそれは納得へと変わっていた。
筆片手に思考するその姿は悩ましいものであり、元来よく見ると整った顔立ちをしている少女なので素直に愛らしいと言える。

「ああ、そういえば今日は七夕でしたね」
「そうですテスト明けの今日が七夕です」
「それはそうとさん、テストの出来はどうでしたか?」
それを今からお願いします
今からでは遅いのでは?普通テスト前の神頼みだと思うのですが…」
「もーいっくつ寝ーるーとー、タナバター
語呂が悪いですね。しかも寝ませんよ」
「副部長って倒したら経験値いくらもらえますか」
「きっとたくさん貰えるでしょうね」

墨をたっぷりと含んだ筆で、力強く願いを短冊へしたためていく。
きれいなのかどうなのか判別しがたい癖のある字は、テニス部の部員ならば誰でも彼女のものだと即座に判断できる。
打倒 副部長』はどう考えても願い事ではないが(どちらかといえば目標)もうどこからツッコめばいいのか判らなかったので、柳生はあえて笑顔で見守った。
そしてはあることに気付く。

「あ、笹がないや」


「そーいや、今日の誕生日ッスねー」

まるで「今日はスーパーの特売日ですねー」とでも言うような気軽さで赤也から発せられた言葉は、テニス部レギュラーにしてみれば核爆発にも等しい威力だった。

「え、ご存知なかった…んスか?」
「言うの遅すぎだろぃ。よりによって当日かよ、前日なら殺すけどな」(←半端が嫌い)
「いらん情報はよく持ってくるくせに…使えん奴じゃ」
「具体的にジャッカルの恋バナとか」
「ジャッカルの彼女とか」
「あとジャッカルの好みの女とか」
「ジャッカルの笑い話はおいしいけどの」
「お前ら俺を何だと思ってるんだ!
「菓子くれるいい奴」
「笑いを提供してくれるいい奴」
「俺の分まで殴られてくれるいい先輩ッス☆」
お前ら…っ

哀れジャッカル。
拳を握り全身を震わせているが、それが怒りなのか何なのか判る者はいないだろう。

「赤也何か知らんのか」
「え?」
「そうそう、の欲しいもんとかなんか千円超えないヤツで」
「あー、俺もこの間聞いて見たんスけどねー、笑顔で『真田副部長暗殺の約束v』なんて言われた日にはどーすればいいんスか」
「…すればええじゃろ?」
「なぁ…。してやれよ約束」
頼むからやめてくれ

自分へ火の粉が降り注ぐことを察したジャッカルは全力で止めた。
きっと仁王や丸井も途中までノリノリで推奨するくせに最後で手の平を返すのだ。間違いなく。99.99%のNASAの安全基準を上回る確率で。

「まーとりあえず聞きに行くしかなかろ…」
「そーだな。真田暗殺の約束以外で」
「そッスね」

ジャッカルをその場に残し3人は部室のドアを開けた。
中で喋っていた柳生とは突然の乱入者に目を点にする。

「、なんか欲しいものないんか?」
「真田暗殺以外で」

「え、笹が欲しいです」

「…笹?」
「笹」
「コアラが食うヤツだろぃ」
「それはユーカリです、丸井君」
「暖簾に腕押しみたいな意味の」
「赤也、それは柳に風が言いたいのか」
「これだよねさん」
「「「「「え?」」」」」

この場にいなかったはずの人間の声が聞えて、5人は一斉に注目した。
そこにはやはりというか何というか、下僕に笹を持たせ優雅な笑顔を浮かべる魔王が居る。

「はい、笹」
「わー、幸村部長すごーい」
(おおおい順応早過ぎだろぃ!)
(つかあの笹いつ学校持って来たんスかね?)
(授業中はどうしとったんかとか疑問はないんか!?)
「あ、幸村部長、真田副部長って倒したらいくら経験値もらえますか?」
「そうだね、いっぱいもらえると思うよ」
「そこは男として倒されてやれよ、弦一郎」

ぽん、と柳に肩を叩かれた真田だが、どうリアクションすればいいものか分からなかったので黙っておいた。
そして何故か流れで笹へ七夕飾りを賑わいながら飾るレギュラー一同。

「ああ、誕生日おめでとうございますさん」
「ありがとうございます柳生先輩」
「…なんじゃ、柳生も知っとったんか……」
「ええ。先日聞きましたからね」
「…俺、のこと知らんことばっかじゃ。つまらん」
「聞かれれば答えるくらいはしますよ、多分」
「じゃ、これからは質問攻めにしちゃるけえ、覚悟しときんしゃい」
「部室で女性を口説くのは止めたまえ仁王君」


オチがない。