「ついに来たねこの季節が…」
「は?」
下校中唐突にぐ、と拳を握ったの発言に、赤也は間の抜けた返事しか返せなかった。
テスト期間中なので部活動もなく青空の下を歩く。
赤也の返答には信じられない…!とでも言いたげな驚愕の視線を向ける。
「赤也には風情ってものが皆無だね。」
「ああ七夕?」
そう言えば今日は7日だったか、とカレンダーを思い出した。
赤也の基準が部活動の所為か身体がテストを拒否しているのかは知らないが、毎回テスト週間に入ると赤也の中で日付や曜日が必ず狂う。
駅前へ来たところで、赤也は心なしかの目がキラキラと輝いているように見えた。
目線の先には、毎年飾られる大きく多い竹の木、そしてそれにぶら下がる人々の願い事が書かれた短冊。
は迷うことなくそして赤也を気にすることもなく、無表情のままに瞳を嬉々と輝かせ竹へ歩み寄る。
「去年の『蛙になりたい』に勝る願い事はないものか…」
「あー、そー言えばそんなのあったっけ」
赤也の記憶が正しければ、去年も短冊を漁った記憶がある。
そのときに見つけた珍回答ならぬ珍願事に中に、細く疲れた様子がある間違いない大人の字で、確かに『蛙になりたい』と言うものがあった。
それを見つけたときは他のテニス部員―――固有名詞を出せば仁王とブン太とジャッカルも居て、5人で短冊を囲み「この人に何があったのか…」と願い事を書いた人物についていろいろと考えたものである。
「…あ、また試験合格がある」
「ふーん。それ何枚目?」
「もう5枚は見た気がするよ。なかなか珍回答はないもんだね…」
ふー、と溜息を吐くに呆れつつ赤也も目を皿のようにして面白い短冊を探す。
が、5分ほど探したところでは腰に手を当て深い溜息を吐いた。
どうやら目当てのモノは見つからなかったらしい。
ハードルが成人の『蛙になりたい』という比較的高めのものだからか。
「あ、俺達も書こーぜー」
赤也が箱から短冊を2枚手に取り、そのうちの1枚とペンをへ手渡した。
そしてお互い書くと竹へつるす。
は早々に吊るし、つつつと音なく赤也へ近づくとそこにつらさんとされる短冊を覗いた。
『常勝俺!』
読める程度の汚い字で書かれた願い事に、はどこか哀れみを含んだような視線で赤也を見やった。
が、赤也はその視線に含まれた感情に気付くことなく既に低い位置へつるされ風に泳いでいるの短冊を見下げる。
神になります。
「…断定?」
「なんかないかねー、今年は」
ぼんやりとそう言い赤也の呟きをスルーして竹の上部を見上げるに、赤也は『アンタの願い事で他のヤツらは爆笑じゃねーか?』と思わずにはいられなかった。あえて口には出さないが。
は本気なのだろうか。本気のことしか言わないだから、きっと大真面目に本気なのだろう。
不意に、「お?」とは声を上げた。
赤也はつられて上を見る。
ゆらゆらと揺れるいっそう高いところにくくりつけられた白い短冊には、一言。
米が喰いたい。
「「…喰えよ。」」
二人の声は、寸分の狂いもなくピッタリと重なった。
米が食べたい人も居るんだよ。某お米侍が頭から離れない。
『蛙になりたい』と言っていたのは友人の妹さんです。
多分この後の短冊を仁王が見つけて「…」みたいなことになるかと。愛の力で書いた人が即座に分かる詐欺師。多分達人も気付く。