「あ、真田副部長ー!」 


は、3年の廊下で発見した真田を呼んだ。



「…む。なぜお前がここにいる」
「先生から部活の事で…って、大丈夫ですか?」
「何がだ」
「足元フラついてるようですから。顔も赤いですし、熱でも…」

が手を伸ばすと、触れる前に真田に手を掴まれ静止させられた。
「これしきの事、なんでもない」
「…なら、いいんですけど。今日の練習は…」
が言い終わる前に、真田はポスンと音を立ててに寄りかかった。
「どこがなんでもないんだか。」
はよいしょと真田を支えると、保健室へと足を向けた。



「38.6℃。完璧風邪ですね」

ベッドに横にされた真田は、柄にもなくおとなしくしていた。
「たるんでるんじゃないですか?真田副部長」
「…すまん」
「午後の授業は欠席ですね。つーかこんな時に先生いないし…」
保健室の机の上には、走り書きで『不在』と書かれた紙が置いてある。
自由に使ってもよいことになっているタオルを水で濡らし絞ると、真田の額へ被せた。
は、勝手に薬品棚を弄って薬を探している。
「…良いのか?勝手に探るなどして…」
「大丈夫ですよ。私は幼くして天才医師と呼ばれた前世を持っているかもしれない女ですから。多分。」
真田は、もはやツッコミをいれる事すら面倒になって黙っていた。

「お。風邪薬発見」
半透明のビンを手に取り、中から錠剤を2・3粒取り出してコップへ水を注ぐ。
「真田副部長、起きれます?薬飲んでから寝ちゃってください」
「…いらん」
ぶっきらぼうな真田の返答に、は眉を(ひそ)めた。
「何言ってんですか。早く治さないといけないでしょう」
「ふん。薬に頼るほどヤワな体ではない」
「…もしかして、薬が不味いから嫌、とか?」
「……」
「…本当に?」
「…ほっとけ」
「うわー可愛い。中3で薬が飲めないって…!」
真田の機嫌を完全に損ねたらしく、ふいっと拗ねてしまった。
は、笑い出したい衝動を必死に堪えている。
そして、何を思ったのか

「副部長、失礼します」
「…んぅ!?」

は、真田の上に馬乗りになって、突然口づけた。
少しずつ溶け出した錠剤がの口内から移動する。
全ての錠剤が真田の喉を通った事を確認すると、は唇を離した。
ベッドから降りると、真田はばっと飛び起きる。
「な…っ」
「ほら、飲めた」
はくすっと笑うと、真田の唇に人差し指を当てる。
熱で赤かった顔が、更に赤みを増していく。
「起きてたら駄目ですって。早く治したいなら、ですけど」
このままの言う事を聞くのも癪に障ったが、確かに早く治さなければならないのも事実なのですごすごと布団を被って横になる。
顔の熱は、まだひかない。

「じゃ、私そろそろ…」
帰ろうとしたが、スカートを掴まれて足を止める。
「戻るのか?」
「…戻って欲しくないんですか?」
「いや…」
(病気のときは心細くなるって本当なんだなー…)
「すまん。戻っていいぞ」
は、ポンポンと真田の頭を撫でると、額に唇を落とした。

「おやすみなさい。真田先輩」

落としたタオルを洗い直すと、また真田の額にのせる。
そして、携帯を取り出した。
「赤也ー?」
『なんで校内で携帯使うんだよ?』
「や、私病欠って先生に言っておいてよ。訳あって保健室にいるから」
『あー、了解。今度なんかくれよ。菓子とか』
プツッという音で切れた後、今度はメールの作成画面を開く。

   >柳先輩、真田副部長午後の授業病欠します。
   >熱が38.6℃あります。完璧風邪です。
   >人に「たるんどる!」と言うわりには自分もたるんでます。
   >熱の所為かとても素直でした。今は寝てます。寝顔は結構無防備で可愛いものです。
   >柳先輩は副部長が薬を嫌がることを知っていましたか?
   >飲めと言うと子供みたいに拗ねてしまいました。可愛いです。
   >私が教室へ戻ろうとするとスカートの端を掴んで潤んだ目で見上げてきました。
   >なんか雨の中の子犬みたいでした。副部長も人の子だったのですね。
   >おかげで私も次の授業出れません。
   >今度何か奢ってもらおうと思っているのですが柳先輩も一緒にどうですか?
   >では、午後の部活で。
   >
   >P.S.副部長で遊ぶときは私も混ぜてくださいね。

自分にしてはかなりの長文メールを打ち終わると、柳のもとへと送信する。
ふと思いつき、

パシャ。

真田の寝顔を携帯で撮っておいた。
さて、何を奢ってもらおうか。


なんかもうすべてが恥ずかしい。
この頃の私は何を考えていたんだか(余談ですが原作の副部長は好きじゃなかったり。某同人作家の美形真田が好きなんです)。