・ヴァルハラートのこと
ガンドール・ファミリー、ラック・ガンドール曰く


―――私が彼女について知っていることなんて、ほんの僅かなことですよ。

極度にして重度の強がり。
ファミリーのボスとしての立場もありますし表にはあまり出さない様にしているみたいですが、彼女はとても臆病な人間です。
の嫌いなものベスト3の内2つを教えて差し上げましょうか。
暗闇と痛みですよ。
しかもその痛みは自分の感じるものだけでなく、他人の感じているであろう痛みでさえ駄目なんですからね。
だからヴァルハラートでは拷問らしい拷問は行われないそうです。…彼女の前では、ですが。
その純粋さがかえって怖ろしく思う人もいるでしょうがね。
拷問するくらいならいっそ、と殺すほどの人間でなくとも銃でさっと殺してしまうそうですよ。
私も一度その場を見たことがありますが…あれは少々滑稽でしたね。
今まで拷問を受けていた男が、の「もう止めて」という言葉に安堵した表情は。
まあ、ほっとした瞬間額に銃を突きつけられてに撃たれたんですけれど。安堵の表情を浮かべたまま。
それから…夜も絶対に灯りを全て消した状態では眠れないらしく、夜になってからは一人で出歩くこともほとんどないんですから、筋金入りの暗所恐怖症です。
その上泣き虫の甘えたがりですからね。
日頃どれほど虚勢を張っているか判るでしょう?
―――最も、度胸は人一倍あるんですけどね。
優しい子ですよ、彼女は。
マフィアに向いていないとは言いませんしどちらかといえば私よりも向いているのでしょうが、間違っても悪人にはなれない人間です。
何を持って悪と呼ぶのかは判りませんから、世間一般論の範疇で、ですが。
感情の切り替えが出来るだけに、ファミリーのボスという立場から・ヴァルハラートという人間に戻ったときの精神的ショックが大きいのでしょう。
自分のしたことに後悔はしませんが、誰より自分を責めるタイプですね。
責めながらも多くのことを望む―――少々貪欲な部分もありますが、平生の彼女を見ていれば貪欲なくらいで丁度いいんですよ、あの子は。
しかもその願いが、些細な幸せであるのだから尚更。

フィーロから聞いたのですか?
ええ、私と彼女は幼馴染にあたります。
ですが正直―――フィーロの幹部昇進の場で再会したときは驚きました。
10年近く離れていたわけですから無理もありませんが、私は彼女がであることにまったく気付けなかったんです。
ああ、なんて失態だ…。聞かなかったことにしてください。
ベルガ兄さんもキース兄さんも気付かなかったそうですが…10年というのは大きいですね。
幼い頃に同じボロアパートで育った仲なのですが、当時の彼女は、まあ…無邪気さだけが取り得というか。
特別器量が良かったわけでもなく、頭が飛びぬけて良かったわけでもなく。
そんな彼女が今や裏の世界では有名人になっているのですから、気付かなくても仕方がないのですが。
それにしても美しく成長したものです。女性と言うのは怖ろしい。
笑顔だけは、昔の面影そのままの様ですけどね。

…それもフィーロから聞いたのですか?
私と彼女の仲と言われましても…まあ、見たままですよ。
そろそろ次の段階へ踏み入りたいところなんですけどねぇ。
どうにも彼女に男の欲望を突きつけるというのが…これではフィーロのことをとかく言えないじゃないですか。
正直ね、怖いんですよ、避けられるのが。
まあ傍に居られれば満足―――とまでは言いませんが、それで満たされるものもありますしね。
ああ、ロニーさんとのことはよくフィーロから聞いていますよ。
後ろから抱き締められたり、ケーキを食べさせられたり…。
ええ、別にロニーさんがへ「はい、あーん」なんてことしたとしても怒るほどのことでもありませんしね?
おや、どうしました?人をそんな殺人鬼でも見るような目で見ないでくださいよ。
私は心が広いので、ロニーさんが彼女の髪を撫でたり梳いたり彼女の柔らかな身体を抱き上げたとしたところで何とも思いませんよ?
…暖房が効き過ぎていますか?凄い汗ですが。
え?何ですって?
…ハ、嫉妬なんてするはずないでしょう?
所詮あんなものは父と娘のスキンシップの様なものだと思えば何てことありませんよ、ええ…!!



ラックに人間として、女性としての彼女を重点に語ってもらいました。