・ヴァルハラートのこと
マルティージョ・ファミリー『秘書』ロニー・スキアート曰く
俺が彼女に関して言えるのは、彼女がどうしようもなく愚かで哀れで幸せな人間だということだけなんだがな。
あいつは最も知ることを欲している。同時に最も恐れてもいる。
それは一見矛盾している様にも思えるが彼女の中には彼女なりの理屈があるようだからな。
は思考せずして生きられない女だ。
息をするのと同じ様に、飯を食うのと同じ様に、考えることをしなければ生きていけない。
そういう風な性質を持って生まれたのだろう。
―――ああ、に力を与えたのは俺だ。
正直呼び出された時は驚いたな。
今まで何度か呼ばれたことはあるが、まだ10歳ちょっとの少女に呼び出されたのは初めてだったからな。
あの時は寧ろあっちの方が驚いていた様な気もするが…本当に俺が来るとは思わなかったんだろう。まあいい。
血溜りの中で彼女は言った。
「全てを滅ぼす力が欲しい」―――とな。
だから俺は自身に課した誓約に従って望んだ通りの力をやったわけだ。
俺は暫くを観察したよ。何を思って年端のいかない子供が力を欲したのか…というよりも、あんな純粋な瞳をして力を望んだ人間に興味があったからだが。
まあファミリーの復讐を行なった辺りまでは予想通りだったが…その後は何もなかった。
仇をうった感動も虚無感もなく、唯考えていた―――何かを。何かは忘れたが、酷くくだらないことだったのは覚えている。
おそらく、は気付いていたのだろう。
自分が望んでいたのは復讐などではないことを。
だが敢えて彼女は復讐を止めなかった。
これは俺の勝手な憶測だが…いや、止めておこう。簡潔に話して判る内容じゃあない。
とにかく、は自分が弱いことを誰より理解していた。
俺が与えた力は力に違いないが、強さではないと彼女は考えていたからな。
精神的にもどうしようもない程弱く、自分の持つ力では所詮何も変えられやしないと思っているらしい。
は自分の力を酷く忌み嫌い、憎んでさえいたからな。自分が望んだものだというのに…しかし何故か、彼女は俺を呼び出したことも、力を欲したことも後悔はしなかった。無論運命を恨むことも。
だからこそ、は全てのことを終えた後でも『破壊者』であることを選んだのだろうが……まあいい。
……俺との関係?
何を勘繰っているのかは知らないが…フィーロに言われたのか?
俺と彼女は単なる友人だ。少なくとも俺はそう思っているんだが。
言ったろう、彼女は精神的に弱いと。
更に自分のことよりも他人の事ばかりに気をまわす偽善者であり偽悪者だからな。
時々は愚痴を聞いてやったり色々と世話を焼いてやらなければ壊れてしまうんだよ。
俺にだから言えることもあるようだし…人には相談しづらいこともあるだろう?
正直、は見ていて面白いからな。
子供の様な言動の多い割に時折予想外なことを言う。これだから人間は面白い。
それにラックとの中々進展のない様を見るのも楽しくはあるんだが…少々悪戯を仕掛けた時の反応を見るのも楽しくて仕方がない。
まあ、それでもマイザーに言わせれば俺はに甘いらしいが……まあいい。
惚れた弱みと言うヤツだ。
ロニーに彼女の本質を重点に語ってもらいました。