ラプンツェルや ラプンツェル
お前の長い髪を垂らしておくれ



が窓枠に乗り上げて歌っていると、不意に玄関の方から人の気配がした。
敵か味方か。敵にしては殺気も敵意もないのでこの隠れ家を知っている知人連中かと思ったが根拠のない安心は出来ず、歌うことを止めて意識を集中させる。
「ああ、構わず続けてください」
あっさりとドアから姿を現した男には頬を緩ませた。
「ラックさん」
「どうぞ、続けて?」
ラックは窓際まで歩み寄り床へ座ると壁へ背を預ける。
最初こそ遠慮がちに小さく声を出していたが徐々にラックがそこへ居ることも忘れたように空まで歌声を響かせた。
祈る様に。呪う様に。望む様に。諦めた様に。
それでもこの歪んだ世界でまだ一握りの希望を探す様には歌う。
ラックがに惹かれたのは、彼女の瞳に歌う歌そのものを宿していたからというのもあるかもしれない。
「―――ラプンツェル、ラプンツェル。お前の長い髪を垂らしておくれ」
ラックの呟きが聞こえたのかの歌声はプツリプツリと途切れてゆき、虚空を見つめていた瞳が僅かに動いてラックの視線と絡み合った。
「ラックさんが童話を知ってるなんて思わなかった」
「子供の頃に母から聞かされた限りですが」

悪い魔女はラプンツェルを高い塔へ閉じ込めてしまいました
ラプンツェルは歌います 誰か助けて 私に気付いて…
「誰かあの塔の上にいるのだろうか?」
一人の王子が歌声に惹かれる
「ラプンツェルや、ラプンツェル。お前の長い髪を垂らしておくれ」
魔女の振りをして呼び掛ける王子
ラプンツェルは長い長い編んだ髪を塔の窓から垂らします


「もし私が塔の上に閉じ込められたら、ラックさんは髪を登って私に会いに来てくれる?」
「そんなまさか」
ラックはの膝程まである長い髪を一房手に取り自身の唇へ寄せる。
琥珀色の水晶に自分の姿が映っているのがどうにも気恥ずかしくて、はふいっとラックから目をそらした。
「こんな綺麗な髪をロープ代わりにするなんて、とてもとても」
「じゃあ私が魔女に呪いをかけられたらどうする?」
「そうですね…魔女をとっ捕まえて無理矢理にでも呪いをとかせます」
「きっと魔女は魔法で姿を変えてるよ?」
「それは困りましたねぇ…。呪いというのは魔女が死ねば解けるもなんでしょうか?」
「そうなんじゃないかな?」
「だったら簡単な話ですよ」
ラックは心の底から嬉しそうに笑みを浮かべ指に絡めた黒髪を引く。
「世界中の人間を皆殺しにすればいい。確実に魔女でない人間以外ね」


魔女に逢瀬を見つかった二人
王子が髪を登ってくる途中で、魔女はラプンツェルの髪を切ってしまいます
塔の下の植え込みには薔薇の華 荊で目をついた王子は失明し、二人は離れ離れになりました


「失明もできませんし」
確かに不死者であるラックが目を突いたところで、痛みを感じた後は再生するだけである。
「仮に眼が見えなくなったとしても―――」
髪をすいてやり耳元や頬を撫でるとは気持ち良さそうに瞼を降ろした。
そっと引き寄せて額を合わせるとそこから伝わる体温がじわりと広がって、幸せな気分になる。
「貴女が歌ってくれさえすれば見つけられれますから」

「まあ、関係のない話でしょう。こうして今一緒に居る私達には」
「言い始めたのラックさんなのに」
「…そうだった」
笑い合うとラックはの身体をぐっと引き窓枠から引きずり降ろす様に倒れ込んだ。


ラプンツェルや ラプンツェル
お前の長い髪を垂らしておくれ



この後にゃんにゃんな展開だといいな!