カーテンの隙間から差す光。朝独特の澄んだ空気。
大きめの白い枕に顔を埋め長い黒髪をダブルベッドの上に散らす。
一糸纏わぬ姿の上にかけられた白い布団がその丸みを帯びた曲線を隠しているためか、見るものにまったく肉欲的な印象を抱かせない。
ラックは愛しい同棲中の恋人の髪を梳いて頭を撫で、狐の様な眼を更に細めて微笑し声をかける。
「、そろそろ起きないと時間が…」
眉を歪めて「いやいや」とでも言うように頭を振り布団に潜り込もうとするにラックは少し布団を捲り露になった瞼にキスをした。
唇をム、と曲げて目を開くの頬は赤く染まっていて、その顔を見つめラックは笑みを深くする。
「目は覚めましたか?」
「…はい…」
早く起きてきてくださいね、と言い残しラックが寝室を後にするとはゆるゆると体を起こしベッドの上に座り込んだ。
身体にかかる気だるい倦怠感は煩わしくもあり嬉しくもありどこか幸せでもあり。
手櫛で大雑把に髪を整えると、は床へ落ちていた衣服に手を伸ばした。
まだ眠い。
きちんとアイロンのかけられたシャツに腕を通し着替をしながら目を擦って窓を開ける。
冷たい風が部屋の空気を掻き混ぜ、循環し、清涼な朝の雰囲気に部屋が満ちたように感じた。

「おはよう…ラックさん」
「おはようございます」
リビングへ行くと既に着替を済ましキッチンで朝食を作るラックの後ろ姿が見えた。
背中でクロスするエプロンの布にどうしようもないときめきを覚えて忙しなく動く背を見つめ。
「すみません、コーヒーをお願いできますか」
「はいはい」
二人ともコーヒーは豆から、しかもそれなりにこだわる人間である。
ラックは砂糖もミルクも入れないがは少しだけ砂糖とミルクを入れる。
朝食が揃うと二人は向かい合わせになって一緒に食べる。
席につく際ラックがエプロンを外し椅子にかける動作はのお気に入りで、大概の朝は盗み見るようにして見ていた。勿論、ラックも気づいているのだけれど。
焼いたパン、スクランブルエッグ、カリカリのベーコンにコーヒー、時々フルーツ。
朝はあまりしっかりがっつり食べない派の二人にはこれで十分な量だ。

食べ終えるとは食器を洗う。ラックはそんなの背後に立ち、彼女の膝程まである長い髪を彼女が動きながらでも器用に結わえる。
ラックは皿を洗う彼女の項を見つめるとおもむろに唇を寄せ白いそこを吸い上げた。
ひゃん!と悲鳴が上がり、一気には耳まで真っ赤になって。
「…えっち」
「痕が残らないのが残念ですね」
「ラックさん…っ」
を後ろから抱き締め耳たぶを甘噛みする。
昨晩疲れ果てるまで貪った彼女の身体。まだまだ足りないと貪欲に求めるのは、彼女を手に入れるために費やした長い時間と苦労の所為か。
「すみません」
「絶対、そう思ってない」
耳元でする彼のクスクスという笑い声がにその思いを確固たるものにさせていた。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「今日は早く帰れるかもしれません」
「じゃあ、私も早かったら、…ご飯作って待ってるね」
「…食べれるんですか?」
「三日くらい帰って来ないで」
「冗談です」
ちゅ、とリップ音を立ててラックは額に唇を押し当てる。
一度フィーロに『行ってきますのキス』をする現場を見られ、「何時までも新婚の様だ」と揶揄されたが、そもそも二人は結婚していないしきっとこれからもしないのだろう。
むしろ何十年と同棲生活を送っているフィーロとエニスの方がその位置に近いと言うのにキスの一つもない上まだ付き合い初めな雰囲気すらないというのはこれいかに。
「貴女も気をつけて」
「ん…」
ラックを見送るとはリビングへ戻りもう一杯コーヒーを煎れる。
そしての優秀な秘書が彼女を迎えに来るまでコーヒーを飲みながら本でも読み、今日の幸せを噛み締めるのだ。



たまにはほのぼの。年代的には1960年以降2000年以内。