秋も半ばになりはしたがまだ日の出ている日は気温も暖かい。
よく晴れた青空の下、向かいで顔を合わせる少女の表情は曇り空どころか今にも雨の降り出しそうなほど晴れやかではなく、門田は心中溜め息をついてカフェモカを喉へ流した。冷めている。
大概と門田が待ち合わせたり話したりするのは、本屋かスタバか、渡草のバンの中くらいである。
の口は何か言おうとするたび動くが、何の音も紡がないまままた閉じられ、不自然に彼女の前に置かれたキャラメルマキアートだけが減っていた。
瞬と項垂れた姿に犬耳(外へハネる癖のある髪がそう見える)が垂れ下がったような印象を受けて、門田はとうとう自分も遊馬崎や狩沢に毒されたかもしれないと少し心配になる。
「あの、ね」
ぽつりと呟かれた音に気付いて門田がを見やると、眉の下がったが俯いたまま言葉を捜している。
おそらく言いたいことの雰囲気は判っているがどう表現すればいいのか迷っているのだろうと門田は何も言わずに先を待って。
「…最近、静ちゃんとセルティが一緒に居るともやもやする」
やっぱり静雄関連か、と門田は内心納得しながら「それで?」と話を促した。
「静ちゃんもセルティも好きなのに、一緒に居るところはあんまり…好きじゃなくて」
どうしよう、と不安げに見上げてくる瞳から門田が察するに、この「どうしよう」は「静雄に嫌われたらどうしよう」であり同時にセルティに対しても同じことを思っていて、はどうやら2人を見て嫉妬する自分のことが嫌いらしく。
の様子を見るに本気で悩んでいるようなので、適当にあしらうのは気が引け門田も頭を悩ませた。元より門田とて経験が豊富という訳ではない。
一般論で言えば確かにそういう嫉妬だとか言う感情を煩わしく思う男もいるし門田自身その気はある。
しかし門田の場合においては一方的に好意を押し付けてくる人間に対してに限定されて。
門田から見れば静雄はをそういう対象にはみなしていない様に思い、逆を言えば。
「あ、静ちゃん!」
雑踏の中で大好きな恋人兼飼い主の様な男を見つけたは今までの暗い表情も何処へやら、瞳を爛々と輝かせた。
視線の方へ門田が首を向けると静雄の方もに気付いたのか軽く手を上げると、も全身から花とハートを飛ばすオーラで手を振り返す。
途端に挙動不審になったを観察。周りと静雄を交互に見るに静雄がチョイチョイと指を曲げた。
そこで門田は気付き、に「行ってこいよ」と促す。
「払っとくから」
「うん…!ありがとう京さん!」
鞄から財布を出そうとするを遮って門田が言うと、は申し訳なさそうな、けれど嬉しそうな表情で門田へ手を振りオープンテラスから静雄の方へと走っていった。
その様子を見て、門田は本当に犬の様だと溜め息とともに微笑を零し。
と話す静雄が自分の方へ何度か複雑な目線を向けてくるのに、ああまったく―――、と思う。
似た者同士だ、と。
ヒロインは静雄とセルティが2人で居る姿にもやもや、
そのことを門田に相談して2人で話してる姿に静雄がもやもや、
更にそのことを静雄がセルティに(ry の無限ループ。
巻き込まれるセルティと門田は多分このループに気付いてて、判ってないのは当人達だけという…。
天然とはまた違う微妙な2人。