時は満ちた 秘密の部屋が 開かれる Dark red −彼岸花― Prologue The parties to a contract. 双方の契約者 「The chamber of secrets?」 何かを示唆するような夜の闇―――。 雨の打ちつける音と雷鳴が響き、暗い部屋を雷の光が照らした。 光源は蝋燭の光のみのこの部屋は、人工の灯りを好かない部屋の主がつくらせたものである。 「そうじゃ。20年前に開かれたあの部屋が―――再び開かれようとしておる」 ダンブルドアの声が、カツンというチェス盤に駒を置く音と重なった。 続いて駒が破壊された音が響く。 ダンブルドアの声には、どこか険しい雰囲気があり。 「それを―――『予言者』が?」 年端のいかない、子供の声は、この部屋の主のものである。 高いとも低いとも、男とも女ともとれる声の持ち主は、その声と変わらぬ中性的な容貌をしていた。 発育途中の体は細く、黒いローブに身を包んでいる。 「その通りじゃ」 「それで―――」 少女は自軍の駒を手にとって迷う様子もなくそれをチェス版へ置く。 次のターンでダンブルドアに今進めた自分の駒は破壊されてしまうが、それもすべて計算の上だった。 「貴方は私に、何をさせたいので?」 まるで腹の探りあい。 チェス盤の上でも、椅子に腰掛けた人間同士でも―――。 ダンブルドアは胸元へすっと手を入れ、白い封筒を取り出し少女へ渡した。 少女―――・は封筒を切り、蝋燭の青白い光でそれを読む。 の鮮やかな紅い瞳が、焔をゆらりと映し。 ホグワーツへの編入許可証を指先でつまみ上げた。 「…私に生徒の中で探りを入れろと?」 ダンブルドアは静かに頷く。 「何も今、彼に組みしておる者を見つけてほしいわけではない。将来的にも考えて、の話じゃ」 「やれやれ、困ったお方だ」 それでは1年やそこらじゃ終わらないではないか…とは溜息を吐いた。 「今はわが一族…『十二支』にとっても大事な時期で。へたに動けば私の命も危ないのですがね」 「承知の上じゃ」 ダンブルドアの真っ直ぐな視線。 にとって、それは苦手に分類されるもので。 再び深い溜息を吐いて、は自身のチェス駒を手に取った。 「旦那様…父には、このことはどう告げましょう?」 「できるなら内密にしておいてくれんかのう。君の父君の怒りを買うのは正直恐ろしいのでな」 微笑みを浮かべてダンブルドアは言う。 その様子に、は少々眉を吊り上げて。 「それならばこちらの条件も飲んでいただけますね。私のことは男子生徒として扱っていただきましょう」 「はて、それは一体―――」 「『大事な時期』と。内輪揉めがいろいろありましてね、特に本家の一人娘になると。もう一つ…付き人の同行の許可を」 「ほう、付き人とな?」 「ええ。私の忠実な僕です」 ダンブルドアが静かに頷くと、は微笑を浮かべた。 口元だけで浮かべられた冷笑―――。 「契約成立、アルバス・ダンブルドア―――チェック」 カツンという音が部屋へ響き、キングのチェス駒は悔しそうに手へ持つ剣をその場に投げ捨てた。 ------------------------------ こんな部屋でチェスやってたら目が悪くなるよ。 (2005.3.31) 書き直し(2006.7.29) TOP NEXT |